カンブリア紀の奇妙な生物は想像するだけでワクワクする 『ワンダフル・ライフ』(スティーブン・ジェイ・グールド)

2009年5月 2日 16:16 カンブリア紀の奇妙な生物は想像するだけでワクワクする 『ワンダフル・ライフ』(スティーブン・ジェイ・グールド)

生物の進化について知る上で、5億年以上前にあたる、カンブリア紀の生物のことは、知っておくべき、みたいなことをどこかで見たので、評判の良いこの本を読んでみました。

ワンダフル・ライフ』は、パージェス頁岩から見つかった、カンブリア紀の生物の化石にまつわる話を元に、生物の進化と、カンブリア紀に生きていた奇妙な生物達の生態を紹介している書籍です。

著者のグールド氏は、以前読んだ『利己的な遺伝子』や『盲目の時計職人』を書いた、ドーキンス氏と並んで、一般向けの生物進化学関連の書籍の著者としては非常に有名な人らしいですね。

とりあえず、読了しての感想としては「カンブリア紀の生物、面白すぎ!」の一言に尽きますね。

カンブリア紀に生きていた生物の多くが、現代の生物の動物門には入らない可能性がある、というのが、なんと言うか、想像を絶する、の一言。
ただ、読了後に色々調べてみたところ、このグールド氏の説は多くの科学者から反対されているみたいですね。

ともかく、あの有名なアノマロカリスをはじめとして、見た目からしてわけのわからない、多様な生物が、カンブリア紀の海の中で、どんな生活を送っていたんだろう、と想像すると、ほんとにワクワクします。

グールド氏が、この本の中で、パージェス動物群を通して伝えたかったのは、

  • 生物は単純な構造から徐々に進化したのではなく、進化の条件が揃ったカンブリア紀の海で、一気に多様な形質を持った生物達が、爆発的に生まれた
  • 生命の進化樹は、よくある「上に上がるほど枝が多くなる」イメージではなく、「最初のほうで最も横に広がった多くの枝が生まれ、その中の一部分の枝のみが、その後分化していった」

というような感じでしょうか。

後者に関しては、パージェス動物群の多くが、既存の動物門に含まれるのか否かで、大きくその説の正誤が左右されそうですね。

前者に関しては、とても興味深い上に、納得できる話です。

あと、この本で、個人的に一番勉強になったのは、「節足動物は全て、各体節の左右にくっついている付属肢を、いろんな形状に進化させていった」ということですね。
読んでいて、凄く「なるほどー」とうなりました。

昆虫をはじめとする、節足動物の、目も、触覚も、足も、羽も、その他諸々の、体に付属している器官は、全て体節にくっついている付属肢がベースだ、とのこと。

なので、節足動物の構造は、基本的に綺麗に左右対称になるんですねー。

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『盲目の時計職人(旧題『ブラインド・ウォッチメイカー)』(リチャード・ドーキンス)の感想

相変わらずマイブームな、進化論とか遺伝子関係の書籍『盲目の時計職人』がめちゃくちゃ面白かったので、ちょっと感想を書いておきます。

『盲目の時計職人』は、以前読んだ『利己的な遺伝子』と同じく、リチャード・ドーキンス氏の著書です。

こういう進化論関連の書籍は、いくつか読んでみたんですが、僕のような門外漢にはなかなか難しい用語や概念が多くて、理解するのが大変なんですよね。
でも、ドーキンス氏の本は、比較的読みやすくて良いですね。

『利己的な遺伝子』同様、「これでもか」というぐらいに色んな比喩を多用して、僕のような門外漢にも理解できるように解説してくれるのが、ドーキンス氏の本の良いところかな、と思います。

本書『盲目の時計職人』も、やはり「自然淘汰」(自然選択)という仕組みについて、「これでもか」というくらい、くどいほど丁寧に解説している本です。
ただ、『利己的な遺伝子』とかを読んで、ある程度の基礎知識を持っているからこそ、スムーズに頭に入ってきた、という部分は多分にあるかとは思います。

特に圧巻だったのは、序盤の1~4章ですね。
もう目から鱗の連続というか、一文節読むごとに、うんうん、と頷いている自分がいました。
面白すぎ。

何億年という、我々人間にとっては想像を絶する、永い永い時間の流れの中で、ゆっくりゆっくりと、生物の進化に影響を及ぼしていった、「自然淘汰」という存在を、くどいくらいに様々な方向から、解説してくれています。

「目」とか、蝙蝠の超音波によるレーダーとか、アリをはじめとする社会性昆虫の複雑な社会構造とか、そういった、一見すると偶然に生まれたとは思えない、生物の持つ奇跡のような仕組みの成り立ちを、納得のいくように解説してくれるのは、圧巻の一言。

というか、「一見すると偶然に生まれたとは思えない」とか書きましたけど、「自然淘汰」にさらされて進化した機能、というのは、イコール偶然ではなく、ある意味必然的にそういう風に進化したものなのだ、ということですね。
そういう概念というか、そういうものを、この本を読んで、改めて理解できた気がします。

本書の後半は、ダーウィン的進化論とは対立する各説に対して、論理的に反証を提示して、 否定していっています。

この部分が、恐らく著者のドーキンスが一番伝えたかった部分なんでしょうね。

「進化論批判者」に対するアンチデーゼというか、「お前らが何となく雰囲気で捉えて批判している『進化論』は、お前らの脳内で勝手に作り上げた『脳内進化論』であって、本当の『進化論』はお前らの理論では論破できないぞ、というかむしろ逆にお前らの論理こそ『進化論』で論破できるぞ」

みたいな訴えが、行間からどんどん飛び出してくる感じ。

その部分は、正直僕にとっては「なんか著者が突然、見えない敵と戦い始めたぞ」的な印象でした。

でも実際、特にキリスト教の影響が強い欧米では、進化論に対する、生理的(?)な部分からくる反発は、僕ら日本人にはイメージできないくらい、根本的なところで、存在するんでしょうね。
日本でも、「進化論」に関して、漠然と、誤った解釈をしている人は、大量に(というかほとんどの人がそうかも)存在すると思います。
というか、僕自身も『利己的な遺伝子』と、本書『盲目の時計職人』を読んで、ようやく理屈で理解できた「ようなき気になっている」レベルですし。

なので、ドーキンスが、僕のような「業界人ではない人」から見ると、「見えない敵と戦っているみたい」と思うほど、必死にアンチ「進化論」な説に対して啓蒙しようとするのは、当然のことなのかもしれません。

とにかく、読んで良かったなぁ、と心から思える一冊でした。

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『見てわかる ダーウィンの進化論』の感想

利己的な遺伝子』を読んでから、もう一年半くらい経ってるんですが、相変わらずマイブームは進化論とか遺伝子とか、その辺の話です。

この間、出張帰りの移動時間で読む本がなかったので、書店で適当に見繕って買ったのが、この『見てわかる ダーウィンの進化論』です。

この本は、最近ハマっている雑誌『ナショナルジオグラフィック』に過去に掲載された、進化論や遺伝子関係の記事だけを集めて、再編集したものらしいです。

そう言われると、確かに一冊の本として全体を通して見ると、個別の各記事それぞれが孤立していて、ぶつ切りっぽい印象もあるかもしれません。

とは言え、うまい具合に、

 
  1. 進化の証明 - ダーウィンが見つけた進化の証拠
  2. 進化の傑作 - 目、腕、翼はどうやって生まれた?
  3. 進化の歴史 - 地球の生命が歩んできた38億年
  4. 哺乳類の進化 - 繁栄の秘密は女性にあった

という、四つの章にまとまってたかな、とも思います。

『見てわかる』というタイトル通り、写真が非常に豊富なので、文章を読まずにぼんやり眺めてるだけでも楽しめますし、だからと言って、文章が物足りないわけでもなく、非常に読みやすい本でした。

全体としては、ざっくりと遺伝子と進化についての概要を解説しているような内容なので、結構既に知っていることも多かったですが、そんな中で、興味深かったのが、遺伝子のスイッチの役割を果たすという「ホックス遺伝子群」に関する記事でした。

なんでも、遺伝子の構成自体は、節足動物も哺乳類も似たようなもので、「ホックス遺伝子」がどの遺伝子のスイッチを、どれくらいの期間オンにするか、で体の構造なんかが変わってくるとか。

プログラミングっぽく例えると、データベースの中身や、使えるAPIは同じでも、どのAPIを使って、どのデータを利用するか、で出来上がる Webサービスの特徴も全然違ってくる、みたいな感じですかね?

あと、もう一つ、読んでいて意外にも新鮮だったのが、最後の「哺乳類の進化」の章ですね。

進化論とか古生物関連の本を読むことは増えたんですが、カンブリア紀の生物とか、定番の恐竜とか、意外と哺乳類が登場する以前の時代にスポットを当てたものばっかり読んでいたのかもしれません。

なので、恐竜の時代に登場して、人類が生まれる頃までの哺乳類の進化の歴史というのは、知らないことだらけで楽しく読めました。

というわけで、あんまり気合を入れなくても、生物の進化についての話がさっくりと読める、という意味で、なかなか良い本だったなと思います。

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『利己的な遺伝子(旧題『生物=生存機械論』)』(リチャード・ドーキンス)の感想

最近、何故か急に地球上の生物の進化というものに凄く興味を持ち始めました。

きっかけは多分、ニコニコ動画でその手の科学物のTV番組の動画を何本か見たことからかな、と思います。

今ではフィクションの世界でもノンフィクションの世界でも「生物は遺伝子によって仕組まれた通りに行動している」というような感じの考え方は一般的になっていると思うんですが、その辺りの詳しい理屈というか仕組みというか、そういうものをちょっと勉強してみようかな、なんてことを考えまして、色々とググってみました。

するとどうも、この『利己的な遺伝子』という本が、とりあえず基本を勉強するのに丁度良いらしい、ということがわかりました。
著者のリチャード・ドーキンス氏は、進化論関連の著作では非常に有名な人らしい。

そんなわけで、図書館で借りてきて、数週間かけて読了しました。
正直、一読したくらいでは、本作の濃い内容を全然消化し切れていないんですが......。

とりあえず、著者のリチャード・ドーキンス氏は非常にくどい文体の人みたいで、なかなか文章の意味を理解するのが難しかったんですが(もしかしたら訳の問題も多少はあるのかな?)、それでも専門家じゃない人にわかるように、出来る限り易しく解説してくれているな、というのが第一印象でした。

「遺伝子」とか「進化論」とかの複雑な仕組みを、ストレートに表現すれば専門用語の山になるんでしょうが、とにかく回りくどく、色んな比喩を交えて、そういった専門用語を使わずに説明してくれたおかげで、楽しみながら読むことが出来ました。

読んでいて個人的に興味深かったのは、以下の三点。

血縁淘汰の考え方

何故、肉親は本能的に他の肉親を守る傾向にあるのか。これを単純な算数でわかりやすく説明されてました。
親と子や兄弟との間には、共通の遺伝子が50%含まれていて(これよりも近いのは基本的には100%同一の遺伝子を持つ双子だけ)、他の同族よりも、親子や兄弟に対して利他的な行動を取ることが、遺伝子にとってメリットがある。
さらに、親子や兄弟間の力や寿命などの相互の関係にあわせて、最も適した形で、利他的な行動と利己的な行動を取る割合を持つ遺伝子が、結果的に生き残っている、という理屈。
なるほどと思わされました。

アリやハチなどの社会性昆虫について

上記の血縁淘汰とも関連しますが、社会性昆虫は本当に興味深い生き物なんですね。
改めて実感。

所謂「女王」のみが生殖・出産するこれらの昆虫では、その他のワーカー(働きアリ・働きバチ)は全てメスで、女王が生んだ卵(=ワーカー達の妹にあたる)の世話をするためだけに生きている。
これは「女王」がメスを生む際の受精の仕組みが他の生物とは異なっているためで、(面倒なので色々な計算を省くと)ワーカー達の姉妹間の遺伝子の血縁度は通常の生物の兄弟姉妹の場合(50%)とは違い、75%になるためらしい。

つまり、ワーカーたちは、遺伝子の観点では50%しか近くない自分の子供を生んで育てるより、女王が生んだ75%近い遺伝子を持つ姉妹を育てたほうが得だ、という結論になるとのこと。

何ていうか、所謂「生命の神秘」みたいなものも、簡単な算数によって、神秘じゃなく理屈で説明できてしまえるところが凄いなぁ、と。
もちろん、こういう「遺伝子」という仕組みが存在すること自体が「神秘」なんですが。

新たな自己複製子「ミーム」

「ミーム」という言葉は、本書を読む前から何度も聞いたことがありました。
Web業界では、一時期ブログ界やmixiなんかで流行った「○○バトン」とか、チェーンメールとか、その辺の「どんどん増殖していく情報」を指して「ミーム」と呼ぶことがありますね。

この「ミーム」という言葉は、本書が初出だったんですね。恥ずかしながら、知りませんでした。(なんかの遺伝子関連の本が初出だとか聞いたなー、程度の認識でした......)

地球に生命が誕生して以来、何千万年、何億年、何十億年という長い時間をかけて、遺伝子(ジーン)は進化してきたわけですが、地球に人間が誕生して以来、ほんのわずかの間に、人間はそれまでの生物の進化のスピードとは比較にならない、とてつもない速さで「進化(進歩?)」していったわけですよね。
その原動力が、人間の脳が生み出した「言葉」によって現れることになった「ミーム」だった、というような感じでしょうか。

今後も人間の生み出した「文化」は凄まじいスピードで進化していくわけで、インターネットというインフラが現れたことが、さらにそれに拍車をかけるんでしょうね。

僕ら人間の場合、「ジーン(遺伝子)」を残すためだけではなく「ミーム」を残すために、一生を費やすことができるわけです。
もしも一生子供を生めない人でも、素晴らしい文学を遺すとか、音楽を遺すとか、研究成果を遺すとか、あるいは生き様そのものが後世の人々にとって偉大な遺物になったりだとか、そういった形で何かを遺すことができる。
こんなことが可能な人間というのはとんでもなく凄い生き物であって、その「人間」という種族に生まれて来れたことが、本当に素晴らしいことなんだなぁ、なんてことを思いました。

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