今日は旧ブログから読書感想文を転載。
以下、旧ブログに掲載していた5年前の文章そのままです。
読了前
昼休み、会社の近所の本屋をぶらぶらしてたら「The S.O.U.P.」なる小説が目についた。
帯のコピーが『ぼくらは、「ゲド戦記」や「指輪物語」のような物語を作りたかっただけなんだ――。』
ちょっと惹かれる。
1ページ目を開いてみる。
創世神話の最初の一節っぽく「はじめに、神はARPANETを創造した」から始まるインターネットの創世記っぽい文章。
この文は何か元ネタあるみたいですが、それはともかく、無性に惹かれて購入。
ネットを舞台にした小説って、数年前に何冊か読んだことあるんですが、
どうも読んでて恥ずかしくなるものが多い印象がありました。
いちいちちょっとした用語に、素人にでもわかる解説をそれとなく入れてみたりしてるけど、
逆にその解説のせいで場が白けるというか何と言うか。
例えば、小説の1シーンで登場人物が電話をかけるシーンがあったとして、
作内で「電話というのは遠隔地にいる人間とも会話できる手段で云々」とか説明されたらきっと誰でも白けることでしょう。
それと似た感覚かな?
ちょっと違う気もする。
しかもその解説が的外れがちだったりとか。
あと、ホラー物とかの種明かしにネットをネタに使うと「ありえねー」の一言と共に一気に冷めてしまうような。
まあ、これは多分、代わりに例えば医学的なネタを使った時に医学に詳しい方が「ありえねー」と感じるのと同じかな?
「らせん」のリングウィルス関連ネタとか、
素人の私には「ふーん、なるほど」程度の感想でしたけど、ちょっと専門的な知識のある人だと「おいおいそりゃ無茶だよ」
という感想を持たれたりするみたいですし。
で、この「The S.O.U.P.」。
マジお勧め。
いや、まだ途中までしか読んでないんですが。
冒頭からいきなり「DoS攻撃」だの「SNMPサーヴィスを要求」だの専門用語の応酬。
わざわざ白けさせるようなくどい解説もなく(解説自体はそれなりにありますけど)、逆にスムーズに読めました。
性善説に乗っかっているインターネット上で自分のIPアドレスをさらけ出すことの危険性を、「ゲド戦記」になぞらえて「IPアドレスは、真の名」
と例えるのは、うまいなぁと思った。
もしかしたら使い古された比喩なのかも知れませんが、なんか目から鱗な気分でした。
けど、いきなりこれだけ専門用語の応酬だと、多少知識のある読者じゃないとさすがにひくのかなぁ。
私の場合、大好きな「屍鬼」で、
敏夫が屍鬼やその被害者の血液に対する見解を医学的な言葉で延々語るシーンとか「なんかよくわからんけど、
とりあえず異常な状態なんやね」程度で流して読んだりしてましたし、そういう読み方で充分なんでしょうね。
とりあえず、「ファンタジー好き」「ゲーム好き」「ネット好き」のうち二つ以上当てはまる人は、
読んでみて損はないんじゃないでしょうか。
って読了する前にそんなこと書いて良いのか?
読了後
「The S.O.U.P.」読了。
うーん結局、かなり面白い「良作」ではあったけど「名作」とは感じなかった。
小説の中の世界に「広さ」はとても感じられたけど「深さ」が感じられなかったというか。
扱った題材にも起因する問題だと思うんですが、ちょっと作り話感が強すぎてリアリティに欠けた印象でした。
端から作り話前提のホラー物とかファンタジー物とは違って、もろに現代劇だからなぁ......。
「黒祠の島」で浅緋の登場で一気に冷めたのも、
同じ理由ですね。
とは言え、普通にお勧めできる作品でした。